「突然頭が割れるように痛くなったら」
―JA徳島厚生連だより『お元気ですか』第60号より―


             脳神経外科部長  瀬部 彰
 
知り合いの脳外科医から聞いた話です。ある中年女性が納屋で片付けをしていて、突然後頭部に「まるで金鎚で撲られたような」激しい痛みを覚え気を失いました。気がついた後も頭痛が続くため脳外科を受診したところ、先生はこの話を聞くや否や、これはクモ膜下出血に違いないと確信。しかし、検査を行ってもクモ膜下出血やその主な原因である脳動脈瘤は見つかりません。後日、退院した女性が納屋に入ってみると、何とそこには棚から落ちた金槌が―――

 幸いこの方の場合は笑い話で済みましたが、この先生の判断は強ち間違いとはいえません。クモ膜下出血の診断で最も大切なのは「頭痛の起こり方」です。今までに一度も経験したことのないような「突然生じた激しい頭痛」を訴える患者さんがクモ膜下出血を起こしている可能性はかなり高いと言えます。(逆に、こういう起こり方以外の頭痛はクモ膜下出血では無い可能性が高いと言えます。)一方、クモ膜下出血を診断する上でCTなどは当てにならない事があります。というのは、軽いクモ膜下出血では、一週間もすると出血が洗い流されてCTでははっきり写らなくなる事もあるからです。こういう時には腰椎穿刺という方法で髄液に血が混じっていないかどうかを直接確かめる必要があります。

 実際、医者の立場からいうと、クモ膜下出血の診断で苦労するのは、患者さんから頭痛の起こり方についての話が十分聞けないときで、高齢者(若い人に比べ頭痛の程度が驚くほど軽いことがあり、また頭痛を生じた時の事をよく覚えていない事があります)、お酒に酔った人(酔って寝ているように見えて実はクモ膜下出血を起こしているということが稀にあります)、交通事故や転んで頭を打った人(外傷によりクモ膜下出血が起きることがありますが、頭を打って前後の記憶が無くなったりすると先にクモ膜下出血を起こして事故や転倒を生じたとしてもわかりません)などの場合です。

 もっとも、クモ膜下出血を起こす前に「前触れ(警告症状)」が生じる事もあります。ある部位の動脈瘤では片方の瞼が垂れ下がったり、物が二重に見えるという症状が出血の少し前に見られる事があります。また、明らかなクモ膜下出血の生ずる前に、前触れとしての頭痛が起きることもよくあります。この頭痛もやはり急に生じることが多いようですが、必ずしもそうとは言えませんので専門家でも見逃す可能性があります。

 とにかく、突然頭が割れるように痛くなったら、すぐに病院(できれば脳外科医のいる病院)へ駆けつけることです。近くに金槌が落ちていなければ。

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